ラジオリスナーとアルピーファンは「明るい夜に出かけて」を絶対読むべし!

私がラジオを聴き始めたのは1年前。
アラフォーから何かを始めるということにはたいてい何か理由がある。理由もなく何かを始めるなんて、若いときかよっぽど余裕のある人間だけだ。私は疲れきっていた。私がラジオを聴き始めたのは最初は現実逃避のためだ。どうしても向いていない仕事へ向かう道すがら、ミスを連発して怒られた帰り道、私は電車に揺られながらラジオの世界に逃げ込んだ。ラジオの世界に引きこもった。ついにラジオを聴く気力もなくなって私は仕事を辞めた。私は再びラジオを聴き始めた。今度は現実逃避じゃない。むしろラジオは私のリアルとなった。


始めは芸人さんがしゃべっているのをただ聴いているだけだった。自分の殻に閉じこもっていた。
聴いていると次第に、自分と芸人さんが一緒にいる気分になった。
そのうち芸人さんとスタッフさん・職人さんとの関係性がわかってきて世界が広がった。
完全に内輪ネタがわかるようになって、私はラジオの世界の一部となった。
深夜でまさに今ブースで芸人さんがしゃべり、職人さんはメールを送り、作家さんがメールを選び、リスナーは爆笑している。職人さんがメールを打つカタカタという音、作家さんがメールを選ぶときの紙のカサカサという音まで聴こえる気がする。一人で聴いているのに、そこには人の気配がある。
私のリアルとラジオの世界との境界線があいまいになっていったのだ。


「明るい夜にでかけて」の主人公はラジオの職人だ。もうその時点でワクワクしてしまう。
主人公はある出来事で職人をやめていたが、アルコ&ピースオールナイトニッポンがきっかけで職人に復帰していた。周りにそのことを隠していたが、同じくアルピーのラジオの職人である少女と出会ってしまったところから、主人公の日常が変わっていく。


実際のラジオの番組名や芸人さんの名前、出来事なんかもところどころ出てくるので、読んでいるうちに本当にこの小説の世界があるなよう不思議な気分になった。今私はYouTubeでアルピーのオールナイトニッポンを聴きまくっているのだが、主人公のラジオネームが出てきても違和感なく受け入れてしまうかもしれない。ヤバイな。
アルピーのオールナイトを聴いたことない人が読んでもラジオのリスナーだったらあるあると感じることも多いです。

イヤホンから耳に落ちてくる、平子と酒井の声は近い。同じ部屋にいるんじゃないかってくらい近い。この謎の距離感こそが、ラジオの生放送だ。テレビじゃ絶対にない。不特定多数のリスナーが聴いているのに、アルピーと俺と三人でいるみたいな錯覚。

もしかして職人さんってこういう気持ちなのかなと想像も膨らむので楽しめると思います。

俺は毎週読まれなくてもいいし、採用数も少なくていい。ただ、平子と酒井、スタッフのガチ笑いが聞きたい。ブースで笑い声が大爆発する、もう、自分のイヤホンが耳からぶっとぶくらいの、そんな笑いにあこがれる。

私がラジオに目覚めたのはつい最近ですが、中学生とか高校生とかで聴き始めて職人になっている人もいるんですよねえ。うらやましい。私もそのくらいから聴き始めていたら職人になろうとしていたかも。私も職人になってみたかった。芸人さんに一目置かれる職人に。


そして私がこの小説で一番好きなのは、アルピーとアルピーのオールナイトの魅力を伝える文章がとにかく素晴らしく、それがさらにリアリティを増しているところです。

リスナーが、「神」ってノリだから。

(略)

番組を支えるという程度の存在感じゃない。もう番組を根こそぎ押し流してしまう洪水のような勢いと力がある。大洪水となって、あさっての方向にすべての辻褄を飲み込んでしまう濁流。舵が取れなくなったアルピーが「もうイヤだあ」「助けてくれえ」と悲鳴をあげるほど、その週は「神回」となる。

アルピーのオールナイトってすごく説明が難しいんですけど、これこれ!これですよ!これ以上の説明はない。
聴いたことのない人はこれを読んでもピンとこないと思うけど、リスナーだったらめちゃくちゃ的確!と思うに違いない。

「いや、たぶん練習はしないんじゃないかな。トークに台本はないと思うけど、でも、平子は、けっこうオチつけますね。家族の話とか多いし、仲良しファミリーなんで、ほのぼの系だったりするけど、ラストは落として笑わせてくる。ガチのクレームみたいな話でも、やっぱり、最後は落としてくる」
「なるほど」
「酒井のトークは、わりと型がない感じするけど、何の話なんだってヤツでも、なんか味がある。
スーッときてスーッと抜けても、なんか残る。俺、酒井のトーク好きですね」

作中、アルピーの名前が思ったよりがっつり出てくるので、ファンとしてはそのたびにテンション上がってしまいました。
あと最近ラジオを聴き始めた私は、ラジオリスナー同士でこんな交流の仕方があったのか!とすごく参考になりました。ラジオの感想とか実況ってTwitterでリアルタイムでされていて、リスナー同士で交流とかもあるみたいだ。ぜひ参加したい!
ラジオ関連のイベントもけっこうあるみたいだ。職人さんとか他のリスナーとしゃべれたりするのかな?どっちみち人見知りで話しかけれないけど。でもこういうイベントってほとんどが東京なんだよね~。

もちろんラジオリスナーでない人でも青春小説として楽しめます。
主人公にトラウマがあって、仲間ができることによってそれを乗り越えていくっていう、まあ、ベタといえばベタなのかもしれない。でも普通の青春小説と違うのは、私の青春時代にはなかった、今の時代だからこその人とのかかわり方、自己表現が描かれていることである。それがすごく新鮮だった。
その一方で若いがゆえの、やたら走り出したく気持ち、劣等感、嫉妬、焦燥感、人間関係の面倒くささ、迷い、などもちゃんと描かれていて、やっぱりこういう青春時代のヒリヒリした感じって今でも変わらないことに安心する。
あと何者かになりたいけど何をしたらいいのかわからない、みたいな自己顕示欲って少なからずみんなあると思うんだけど、今の子って、わりと誰でも表現者になれるから逆にそのプレッシャーがすごいのかなって思った。

最終的に、主人公の根本的な問題というのは解決してないんだけど、なんとなく自分の進むべき道が見えてきたというところで話は終わります。
希望の持てる終わり方ではあるんですが、ただ私はもう知っちゃってるんですよね。アルピーのオールナイトがすでに終了していることを。それがこの小説に何とも言えないせつなさと余韻を残してくれています。
この先、アルピーのオールナイトに関わりたいという主人公のほのかな希望が叶うことはありません。
そしてアルピーのオールナイトが終わってしまったのと同じく、青春時代というのもいつかは終わってしまうということを暗示しているように感じたからです。

私はこの小説を読み終えたとき、爽快感というよりも悔しさのほうを多く感じてしまいまいした。
一つはリアルタイムでアルピーのオールナイトを聴けなかった悔しさ。
もう一つは自分がアルピーやアルピーのラジオについて書いたブログの文章がゴミクズに思えてしまった悔しさです。この気持ちはハガキ職人として明らかに自分より才能のある少女に出会ってしまった主人公の気持ちに近いのかもしれない。

小説に出てくる「明るい夜」というのは主人公の働く深夜のコンビニや、深夜のラジオブースだったりします。私にとっての「明るい夜」はやっぱりパソコンの画面だろうか。今日もパソコンの光を眺めながら文章を打つのだ。